病気で「時間が足りない」と感じた時:焦りと無力感、そして新しい時間の価値を見つけるまで
病気と診断されたばかりの頃は、様々な不安に襲われることと思います。特に、「もう以前のように自由な時間が持てないのではないか」「残された時間が少ないのではないか」と感じ、強い焦りや無力感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。私自身も、診断を受けてから、時間の流れや自分自身の時間に対する感覚が大きく変わりました。ここでは、私が病気という状況下で感じた時間に関するストレスと、どのようにその感情と向き合い、乗り越えていったかについてお話ししたいと思います。同じような悩みを抱える方の、少しでもお役に立てれば幸いです。
病気が判明した時の感情と、直後に感じた時間のプレッシャー
病気の診断を受けた時、私の世界は一変しました。告知された病状や今後の治療の見通しを聞き、頭の中を駆け巡ったのは、「もう時間がなくなる」という感覚でした。これまで当たり前だと思っていた日々の時間、将来のために計画していたこと、やりたいと思っていたこと、これらがすべて泡のように消えてしまうのではないかという強い不安に襲われました。
特に、まだ若かった私にとって、キャリアプランやプライベートな目標など、長期的な計画がすべて崩壊したように感じられました。「他の人と同じように時間が流れていない」「自分だけが取り残されてしまう」という感覚に、激しい焦りと同時に、どうすることもできない無力感を覚えました。
具体的な時間のストレスと、その向き合い方
病気になってから私が具体的に感じた「時間に関するストレス」は、主に以下の点でした。
- 治療や体調不良による時間の消費: 通院や検査、治療に多くの時間を取られること。また、治療の副作用や病気自体の症状による体調不良で、思うように動けない時間が増えたこと。これが「本来やりたいことに使える時間が圧倒的に足りない」という焦燥感に繋がりました。
- 将来への不確かさによる計画性の喪失: 病状の見通しが立てにくいことで、以前のように長期的な計画を立てることが難しくなりました。これが「目標に向かって進んでいる実感がない」「時間が無駄になっているのではないか」という不安や無力感を生みました。
- 他人との比較: 健康な友人が仕事や趣味に時間を費やしている様子を見るたび、「自分は何もできていない」と感じ、さらに焦りが募りました。SNSなどで他者の充実した時間を見ることも、時には辛いものでした。
- 「早く治さなければ」「早く元に戻らなければ」という焦り: 周囲の期待や、自分自身の中の「健康だった頃の自分」との比較から、「限られた時間の中で早く回復しなければ」というプレッシャーを感じました。
このようなストレスに対して、当初は無理にでも以前と同じように活動しようとしたり、逆に何もかも諦めてしまったりと、極端な行動をとることもありました。しかし、どちらも心身に大きな負担をかけるだけで、根本的な解決にはなりませんでした。
ストレス克服・軽減への道のり:時間の質に目を向ける
試行錯誤を続ける中で、私が徐々にストレスを軽減していけたのは、「時間の量」ではなく「時間の質」に目を向けるようになったことでした。
- 小さな「できたこと」に価値を見出す: これまでのように長時間活動することは難しくなりましたが、体調が良い数分、数時間でできることを見つけ、それに集中するようにしました。例えば、短時間だけ散歩をする、好きな音楽を聴く、数ページだけ本を読むなど、小さなことでも「今日の自分にできたこと」として意識することで、無力感が少しずつ和らぎました。
- 「何もしない時間」を許容する: 体調が悪く、文字通り何もできない日も多くありました。以前はこのような時間を「無駄」だと感じていましたが、これは回復のために必要な時間なのだと考えるようにしました。罪悪感なく休息を取ることを自分に許可したことで、心が楽になりました。
- 「今、ここ」に意識を集中する練習: 将来への不安から「もしものこと」ばかり考えてしまう時、意識的に目の前のことに集中する練習を始めました。例えば、食事の際に味わいを深く感じたり、窓から見える景色をじっくり眺めたり。マインドフルネスのような感覚で、「今」という時間の中に存在する価値を見出すように努めました。
- 時間の使い方について人に話す: 親しい家族や友人、そしてこのコミュニティで、自分が感じている時間に関する焦りや不安を正直に話すことで、共感を得られたり、意外な視点からのアドバイスをもらえたりしました。「時間が少ない」と感じているのは自分だけではない、ということを知れたのも大きかったです。
- 目標の再設定: 長期的な目標が立てられなくても、数日後、1週間後といった短いスパンで達成できそうな小さな目標を設定するようにしました。これにより、「前に進んでいる」という感覚を取り戻し、焦りを和らげることができました。
これらの取り組みを通じて、私は時間に対する考え方を大きく変えることができました。時間は限られているかもしれませんが、その中でどのような時間を過ごすかは自分で選べるのだ、と気づいたのです。生産性だけが時間の価値を決めるのではないこと、心地よさや心の平穏もまた、かけがえのない時間の質であることを学びました。
現在の心境と、読者の皆様へのメッセージ
現在も、病気と向き合う日々は続いています。体調の波があり、計画通りにいかないことも少なくありません。それでも、「時間が足りない」「置いていかれる」という強い焦りや無力感に囚われることは少なくなりました。限られた時間の中で、自分が本当に大切にしたいものは何かを見極め、一つ一つの瞬間を丁寧に生きることに価値を見出せるようになったからです。
同じように病気による時間に関するストレスを抱えている方がいらっしゃいましたら、どうかご自身を責めないでください。時間が思うように使えないこと、将来への不安を感じることは、決してあなたが弱いからではありません。この状況下でそのような感情を抱くのは、ごく自然なことです。
焦りや無力感に押しつぶされそうになった時は、少し立ち止まって、今、この瞬間のご自身の心と身体に耳を傾けてみてください。そして、ほんの小さなことでも、今のあなたに「できること」を見つけ、それに意識を向けてみてください。完璧を目指す必要はありません。一歩ずつ、ご自身のペースで、時間との新しい付き合い方を見つけていけることを願っています。あなたは一人ではありません。