病気になってから、以前の自分と比べて落ち込んでしまう:過去の自分との比較から抜け出し、今の自分を受け入れる道のり
病気による変化と、過去の自分を懐かしむ気持ち
この「ストレスとの声、みんなの体験談」をご覧になっている皆さまの中には、病気と診断され、体調や生活が大きく変わられた方が多くいらっしゃると思います。私もそうでした。病気になる前は当たり前にできていたことが、今は難しくなったり、以前と同じようには動けなくなったり…。そのような変化に直面した時、ふと「病気になる前の自分はこうだったのに」と比較してしまい、どうしようもなく落ち込んでしまう、という経験をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、私が病気によって体調や日常が変化したことで感じた、過去の自分との比較によるストレスと、そのストレスにどう向き合い、どのように心の平穏を取り戻していったのかについて、お話しさせていただきたいと思います。この体験談が、同じような悩みを持つ方にとって、少しでも心の支えやヒントになれば幸いです。
病気判明と、失われた「普通」への戸惑い
私が病気を診断された時、まず感じたのは強い衝撃と、「どうして私が」という受け入れられない気持ちでした。そして、診断後の治療や体調の変化が進むにつれて、以前は当然だと思っていた「普通」の生活が失われていくのを実感しました。
例えば、以前は長時間歩いたり、友人と夜遅くまで過ごしたりすることが平気でした。しかし、病気になってからは、すぐに疲れてしまったり、特定の時間帯になると体調が悪くなったりすることが増えました。また、以前は集中して仕事に取り組めたのに、病気の影響で集中力が続かなくなったり、物事を記憶するのが難しくなったりすることも。
そのような時、SNSで過去の旅行の写真を見返したり、友人から以前の自分の活発なエピソードを聞かされたりすると、「あの頃の自分はもういないんだ」と感じてしまい、言いようのない寂しさや喪失感、そして「今の自分は劣っているのではないか」という気持ちが芽生えました。過去の自分という「理想」と、今の現実の自分とのギャップに、日々ストレスを感じていました。
具体的なストレスと、向き合い方の模索
この「過去の自分との比較」から生じるストレスは、私の生活に様々な形で影響を及ぼしました。
まず、友人や家族との関わり方です。以前のように気軽に誘いに乗れなくなったり、途中で体調が悪くなってしまったりすることが続くと、「期待に応えられない自分」「迷惑をかけてしまう自分」だと感じてしまい、人と会うこと自体を避けるようになっていきました。これは、過去の「何でも一緒に楽しめた自分」と比較してしまうからこじる感情でした。
また、仕事においても、以前のようなペースで業務をこなせない自分に対して、強い無力感や焦りを感じました。過去にはもっと効率よく、もっと多くのことができたはずなのに、今の自分はそれができない。この自己否定的な感情が、さらに自信を失わせ、ストレスを増大させていきました。
このようなストレスに対して、最初は無理にでも以前のように振る舞おうと試みました。体調が優れない日でも無理して外出したり、疲れていても家事を完璧にこなそうとしたり。しかし、これは結局体調を悪化させ、さらに「やっぱり自分はもうダメだ」というネガティブな感情を強めるだけでした。
次に試みたのは、「できないこと」に目を向けないようにすることでした。これは一時的には効果がありましたが、根本的な解決にはなりませんでした。なぜなら、無意識のうちに、いつかまた「過去の自分」に戻れるのではないかという期待があり、それが叶わない現実を見るたびに、やはり比較による辛さが再燃したからです。
克服・軽減の道のり:今の自分を大切にするという気づき
この「過去の自分との比較」というストレスから抜け出すきっかけとなったのは、ある日、信頼できる友人にかけてもらった言葉でした。「病気になる前のあなたもあなただし、今のあなたもあなただよ。形は変わっても、大切な部分は何も変わっていないよ。」
この言葉を聞いたとき、私はハッとしました。これまでの私は、病気になる前の自分を「完璧で理想的な自分」、今の自分を「欠けていて劣っている自分」として捉えていたことに気づいたのです。しかし、過去の自分はあくまで「病気になる前の一時期の自分」であって、それが全てではありませんでした。そして、今の体調や状況は、病気というやむを得ない事情によるものであり、私の価値や人間性が劣化したわけではないのです。
この気づきを得てから、私は少しずつ考え方を変えていきました。
- 「できないこと」ではなく「できること」に目を向ける: 以前のように長時間歩けなくても、近所の公園をゆっくり散歩することはできる。以前のように集中力が続かなくても、短い時間で区切って作業することはできる。このように、「失ったもの」を数えるのではなく、「今の自分にできること」に焦点を当てる練習を始めました。
- 小さな目標設定と達成感: 「今日は〇時まで起きていよう」「今日はこの本を10ページ読もう」など、今の体調に合わせて達成可能な小さな目標を設定し、それができた時に自分を褒めるようにしました。小さな達成感の積み重ねが、少しずつ自信を取り戻す手助けになりました。
- 「まあ、いいか」を受け入れる: 完璧を目指すのをやめました。以前は完璧にできていたことも、今は完璧にできなくても大丈夫だと、自分に許可を与えるようにしました。家事が少し手抜きでも、約束の時間に少し遅れても、体調が優れない時は無理せず休んでも、「まあ、いいか」と思えるようになったのです。
- 今の自分を「労わる」「大切にする」: 過去の自分と比較して自分を責めるのではなく、病気と戦っている、あるいは病気と共存しようとしている今の自分を、何よりも大切にしようと決めました。体調が辛い時は無理せず休み、自分が心地よいと感じることを優先する。これは決して怠けているのではなく、病気と向き合うために必要な「自己ケア」なのだと認識を変えました。
- 同じ病気の方との交流: ストレスとの声のコミュニティのような場所で、同じ病気を抱える方々の体験談を読んだり、交流したりすることも大きな支えとなりました。皆さんそれぞれに悩みや辛さを抱えながらも、前向きに工夫しながら生活されています。それは、「自分だけではないんだ」「今の自分にできることは必ずあるんだ」という勇気を私に与えてくれました。
現在の心境と、読者の皆さまへのメッセージ
これらの取り組みを通して、過去の自分との比較に囚われることは、以前よりずっと減りました。もちろん、全く比較しなくなるわけではありません。ふとした瞬間に「ああ、あの頃は良かったな」と思うこともあります。しかし、そのような時も、自分を責めたり、今の自分を否定したりすることはなくなりました。
今の私は、病気になる前の自分とは違う自分です。しかし、それは劣化したわけでも、価値がなくなったわけでもありません。病気という経験を経て、以前とは違う視点や価値観を持つようになった、これもまた「私」という人間の一つの形なのだと、今は心から思えるようになりました。
病気と診断されて間もない方や、現在も病気による体調の変化に悩まされ、「以前の自分」を懐かしんで辛くなっている方へ。 どうか、ご自身を責めすぎないでください。病気になる前の自分と比べてしまうのは、あなたが一生懸命生きてきた証であり、それだけ病気による変化が大きいということなのだと思います。
でも、今のあなたも、精一杯毎日を生きています。病気と向き合いながら頑張っている、今のあなたを、どうか大切にしてあげてください。完璧を目指さなくて大丈夫です。できないことがあっても大丈夫です。過去の自分という「理想」に囚われず、今の自分の心と体に優しく寄り添うことが、ストレスを軽減し、穏やかな日々を送るための第一歩になるはずです。
あなたは一人ではありません。同じように悩んでいる人が、ここにはたくさんいます。焦らず、一歩ずつ、今のあなたにとって心地よい道を探していきましょう。