病気がもたらした身体への不信感:揺らぎを受け止め、自分との絆を取り戻す体験談
はじめに:身体への信頼が揺らいだ時
病気と向き合う日々の中で、様々なストレスを感じていらっしゃる方も少なくないと思います。特に、それまで「当たり前」だと思っていた自分の身体が、思うように動かなくなったり、予測不能な変化を見せたりする時、身体への信頼が揺らぎ、深い不安や戸惑いを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私も、病気が判明してから、自分の身体との関係性が大きく変わってしまった一人です。以前は、多少無理をしても大丈夫だと信じていた身体が、病気によって突然、頼りにならない、あるいは敵のような存在に感じられるようになりました。この体験を通して感じたストレスと、その中でどのように身体との新しい絆を築いていったのか、私の経験をお話しさせていただければ幸いです。
病気判明と、身体への不信感の始まり
病名を告げられた時、頭の中が真っ白になったと同時に、「なぜ、私の身体が」という強い衝撃を受けました。それまで特に大きな病気をしたことがなく、健康であることに対して疑いを持っていませんでした。多少疲れていても休めば回復する、風邪を引いてもすぐに治る、それが当たり前だと思っていたのです。
しかし、病気と診断されたことで、その「当たり前」が一瞬にして崩れ去りました。「この身体は、もう以前のようには機能しないのかもしれない」「いつ、どんな不調が襲ってくるか分からない」という思いが募り、自分の身体が信じられなくなってしまったのです。鏡を見るたびに、少しの痛みやだるさを感じるたびに、病気の進行を恐れ、身体に対して警戒心を抱くようになりました。
具体的なストレスと、不信感との向き合い方
身体への不信感は、日常生活の様々な側面にストレスをもたらしました。
まず、体調の波への恐怖です。それまでは多少無理な予定を入れてもこなせていたのが、「明日の体調が悪くなったらどうしよう」という不安から、先の予定を立てること自体が怖くなりました。友人との約束も、急な体調不良でキャンセルしてしまうのではないかという心配から、ためらってしまうことが増えました。身体が予測できないものに感じられ、コントロールできないことへの無力感を常に抱えていました。
次に、「普通」にできない自分への焦りです。以前は簡単にできていた家事や仕事が、病気の影響で思うように進まない時、「なぜこんなこともできないのか」と自分を責め、身体に対して「もっと頑張ってほしい」と要求してしまうことがありました。しかし、無理をすれば体調は悪化し、さらに身体への不信感を募らせる悪循環に陥りました。
また、他人の健康な身体への羨望もストレスでした。SNSなどで友人たちの活動的な様子を見るたびに、「どうして自分はこんなに身体が弱いのだろう」と比較し、落ち込んでしまうこともありました。自分の身体だけが特別に「壊れてしまった」かのように感じられ、孤独を感じました。
この不信感と向き合うために、最初は無理やり「大丈夫だ」と思い込もうとしたり、体調が少しでも良い時に「病気になる前と同じように動けるはずだ」と過剰に活動したりしました。しかし、これらはかえって体調を崩し、不信感を深めるだけでした。
不信感から、身体との新しい絆を築く道のり
試行錯誤の中で、私は「身体をコントロールする」という考えを手放す必要を強く感じました。そして、「身体と対話する」という新しい視点を持つようになりました。
まず始めたのは、日々の体調を丁寧に記録することです。単に「調子が悪い」だけでなく、どのような症状が、どのような時に、どのくらい続くのかを具体的に書き出しました。これは、漠然とした身体への不安を具体的な情報に変え、予測不可能なものだと感じていた身体にも、ある程度のパターンや傾向があることに気づかせてくれました。記録は、体調が良い時の状態や、何が体調を悪化させるのかを知る手助けにもなりました。
次に、身体の「声」に耳を傾ける練習を始めました。疲労を感じたら無理せず休憩を取る、痛む箇所があれば温めたり軽くストレッチをしたりするなど、身体が求めていることに応えるように努めました。最初は「こんなことで良くなるのか」と半信半疑でしたが、身体の小さな変化に気づき、それに応えることで、少しずつ身体との間にコミュニケーションが生まれていくように感じました。
また、専門家との連携を深めることも重要でした。医師や療法士の方に、感じている不調や不安を率直に伝え、アドバイスを求めました。彼らの専門的な視点からの説明は、身体で起きていることへの理解を深め、漠然とした不信感を和らげる助けとなりました。「この身体は、決して『壊れた』のではなく、病気という状況の中で精一杯頑張っているのだ」と、見方が変わっていきました。
そして、小さな成功体験を積み重ねることも大切でした。例えば、短い時間でも散歩ができた、痛みが和らぐ工夫を見つけられた、体調に合わせて無理なく一日を過ごせた、といった小さな出来事を意識的に肯定しました。これらの成功体験は、「この身体でも、できることはある」「身体は私の味方かもしれない」という希望を少しずつ育んでくれました。
現在の心境と、読者の皆様へのメッセージ
現在も、私の身体は完璧に「元通り」になったわけではありませんし、体調の波を感じることもあります。しかし、病気と診断された直後のような、身体への強い不信感や恐怖は大きく軽減されました。
かつては「思い通りにならない敵」のように感じていた身体が、今は「共にこの人生を歩むパートナー」のように感じられます。時にぶつかり合うこともありますが、お互いの状態を理解し、労り合う関係性が築けてきたように思います。身体の不調を感じることは、私にとっては「少し休む時間だよ」「無理しないでね」という身体からの大切なメッセージだと捉えられるようになりました。
病気によるストレスや、身体への不信感を感じていらっしゃる皆様へ。その感情は決してあなた一人だけが抱えているものではありません。あなたの身体は、今この瞬間もあなたを支え、病気と懸命に闘っています。
もしかしたら、すぐに身体への信頼を取り戻すことは難しいかもしれません。しかし、焦らず、あなたの身体の小さな声に耳を傾けることから始めてみてください。無理な目標を立てるのではなく、体調に合わせて柔軟に過ごすことを自分に許可してみてください。そして、小さな変化や、身体が「頑張ってくれた」と感じる瞬間を見つけたら、それを肯定してあげてください。
身体との関係性は、時間をかけて育んでいくものです。時には立ち止まったり、後戻りしたように感じたりすることもあるかもしれません。それでも、諦めずに、あなたの身体と向き合い、寄り添っていくことで、きっと新しい、あなたらしい身体との絆を築いていくことができると信じています。あなたは一人ではありません。この場所で、共に支え合いながら、自分自身の身体と心に優しく寄り添っていきましょう。